白んだ空、胸は明かず

Twitter:@siramune

(ネタバレ注意) ノベルスゲーム「ISLAND」既プレイ者向け感想 ~Part1~

先日、ネタバレ無しの軽い感想を書いたのですが、

あれだけでは私も物足りないので、今回はネタバレ有りで長文感想を書きたいと思います。

また、「ISLAND」はあまりにも壮大なので、この記事の文字数も相当なものになると予想されます。

この作品を語るにはそれほどの分量が必要なのです。

まずは、プレイした順に以下 4つのルートの感想を書こうと思います。

これはPart1で、語るルートもストーリー全体からしたら問題提起のルートでもあるため、
ありふれた感想しか書けませんがご容赦ください。

1.共通ルート

「初めに、音があった」からはじめるプロローグ。
このプロローグがとても印象的で、主人公の背負っている信念、今後の物語への期待が生まれる。
そして、力強いからずっと忘れられなくて、
ぼんやりとしたリンネの顔が脳裏をよぎるから、直後のコメディ調の序盤を進めていても疑心暗鬼になってしまう。
この出だしと直後のコメディさ加減が絶妙でとても良かった。
そして、物語を読み進めていくにつれ明らかになっていく「媒紋病」や「御三家の確執」、「暴龍島」、「神隠し」、そして「伝承」といった不穏な影。
そんな奇病や風習、オカルト、民間伝承に加えて、タイムトラベルや並行世界仮説などのSF要素が盛り込まれていく。
これら全てが序盤のコメディっぽさの中に見え隠れしていて非常に良いアクセントとなり、
プレイヤーは様々な仮説を立てながらプレイせざるを得なくなっていく。
「刹那は本当に未来人なのか」、「そもそもプロローグで見たあの娘はだれなのか」などなど。
共通ルートは、プレイヤーへの問題提起のためのルートであろう。
「これほど膨大な問題と仮説が与えられては混乱することだろう」とライターに言われているような気さえした。
 

2.紗羅編

初めに紗羅編をクリアしたことによってさらに疑心暗鬼になってしまた気がする(笑)
(このルートはちょっと怖いよ・・・(笑) )
伽藍堂家。媒紋病患者を間引くために自らその手を汚してきた家。
そんな風習があったせいで一部の島民から目の敵にされてきた。
その家の長女として生まれた紗羅は何もしていないにも関わらず、
その差別の視線を逃れずには生きていけなく、苦悩しながらこれまでを生きてきた。
そんな紗羅のよりどころは、母(万里亜)の言った「この子は島を救う子だ」という言葉のみだった。
しかし、紗羅はまた、この言葉により苦悩することとなる。
このルートは最初から真相判明までずっと「タイムトラベル」を肯定して進んでいく。
序盤にあった刹那のおぼろげな記憶(火を背中に受けてサラの声を聞くシーン)のミスリードをはじめとした大量のミスリードにより、
紗羅と万里亜同一人物説、紗羅タイムリーパー説を肯定しながら進めていくことを強いられる。
しかし実際は紗羅と万里亜は完全別人の親子であり、タイムトラベルせず終わることとなる。
あまりのどんでん返しに笑ってしまった。
このミスリードの多さと巧みさ、エピローグのどんでん返しがプレイヤーを疑心暗鬼にさせるには最高だったと思う。
最大の原因は万里亜の存在。
この母親が奇想天外なものだから余計にこじれたんだろうなあと感じた(笑)
もう少し素直だったら・・・と思うことも何度かあった。
そして、このルートを経験したことにより、私はさらにシナリオを疑うようになってしまった。
最も印象的だったシーンはやはり「紗羅が自殺するために火を放つシーン」だ。
因習と自らの因縁を酷く気にしていた紗羅は、犬とペット(まぁや)の介錯を経て、完全に自己嫌悪に陥る。
まだあどけない少女が生と死により苦悩した末の自殺を図る(未遂)このシーンは胸を打たれるものがあった。
エンディングでは過去に囚われていた紗羅の面影がなくなり、
自らの夢に向って頑張る姿が見ることができ、嬉しかった。
しかし、エピローグでようやく真相が判明するため、感想すら本当に書きにくい・・・。
 

3.夏蓮編

はじめに言わせて欲しい。
このルートのフローチャート頭おかしくない?
いくつもの選択肢があったにも関わらず終着点はほぼひとつだなんて・・・。
まあ、そんな夏蓮ルートだけど、ストーリー自体は分かりやすくて助かった。
紗羅編はどんでん返しだったけれども、夏蓮編は普通に楽しめた。
夏蓮はいわゆる今どきの普通の女子高生。
生まれた場所と家が少し特殊だっただけ。
そんな普通の女子高生はオシャレで広い本土に憧れる。
そこに古臭い村社会のルールへの辟易が重なり、さらに強く島からの逃避を切望し実行。
刹那はそんな夏蓮の姿勢に惚れ、脱出を手助けする。
エピローグも含めEDは、刹那自身現代に生きること、夏蓮と共に未来を造ることを決意して幕引き。
島を巡る謎や伏線は回収されることはほとんどないが、他のルートの理解が深まる。
そんなシーンが多いような気がした。
言ってみれば、ヒントを提示するルートなのだろう。
共通ルートは問題提起、紗羅編はプレイヤーの思考力の強化と更なる問題提起、夏蓮編はヒント(伏線)の提示。
そんな感じがした。
そんな印象が最も強いのは「刹那が夏蓮に生物(染色体)について教えるシーン」だった。
X染色体やらY染色体とかいうワードを聞いたのも久しかった。
とにかく、刹那の説明力には感服した。 よくあそこまで綺麗に説明できるものだ・・・(笑)
このシーンはストーリー的にも後々重要になってくる。
媒紋病が染色体異常だったり、万里亜が研究者だったり、
歴史の連続性であったりと、そのあたりのことについて事細かに説明してあり、
グランドエンディングの読解の手掛かりになった。
そういった意味合いで、このルートは「ヒントのルート」と形容したい。
また、夏蓮編のエンドについてだが、このルートは夏蓮の夢が自らの手で成就され終わるため、本当に心地よかった。
本土でより一層美しくなったものの、力強さが残る夏蓮の姿は眩しかった。

4.凛音編

さて、ここからが「ISLAND」の本領発揮であり、本題である。
恐らく、紗羅編と夏蓮編をクリアしてはじめて解放される凛音編。
残された謎は未だ膨大だ。
刹那の正体、媒紋病と暴龍島の存在、5年前の真実、伝承の意味するもの、そしてプロローグの謎の少女と刹那の使命。
大きな謎だけでもこれだけある。
凛音は「おとぎばなし」に憧れ、記憶喪失の主人公刹那をおとぎばなし中のせつなと、
そして過去に出会った刹那(別人)と重ねて、恋をする。
凛音は若い。恋に恋をしているように感じた。
デレてる凛音の可愛さは無限大だったのだが・・・(CV.田村ゆかりの萌えはヤバいって、ホント)
中盤でプレイヤーは「主人公刹那が5年前に行き、刹那を殺した」という仮定を紗羅から聞かされる。
これ以降プレイヤーはこの仮説を受け入れながらプレイしていくこととなる。
(プレイ後に思い返すと、凛音編の肝となるこれすらもミスリードとかほんと末恐ろしい・・・)
この仮定が提示されたシーンは同時に、凛音が主人公刹那を拒絶するシーンでもある。
ここの田村ゆかりのドスの効いた演技は、直前の萌えボイスとのギャップもあってか、本当に恐ろしかった・・・。
結果として、主人公刹那と凛音の恋は、凛音の死により「おとぎばなし」通り悲恋で終わる。
このあたりは2人の刹那の存在がぐちゃぐちゃになり読み進めにくかった。
しかし、一度しっかり理解してしまえば、やはり言葉巧みなライターを称賛せざるを得ない。
そして、刹那は大きな誤解(CDとカセットテープの違い)に気付き、
タイムトラベル説、ループ説を否定する。
ここにきてプレイヤーもタイムトラベルを否定せざるを得なくなる。

しかし、この後、正真正銘コールドスリープ装置の存在を桃香から聞かされることにより、
物語は色を変え、急速に展開していく。
主人公刹那はまずコールドスリープマシンで未来へ行き、
過去の凛音を救うために、過去へ行けるタイムマシンを見つけに行く。

プレイヤーはやっと、メインヒロインルートのエピローグで「タイムトラベルはこの作品に確かに存在する」と確信できる。
紗羅編ではタイムトラベルは否定され、夏蓮編ではタイムトラベルの概念さえあまり触れられなく、
凛音編ではタイムトラベルの存在が二転三転して、やっとプレイヤーはタイムトラベルを肯定できた。

「ISLAND」はこのように物語の根幹をなすタイムトラベルやら生まれ変わりやらの話が二転三転しながら複雑に進むから、
プレイヤーは頭を悩ませながらプレイしていかなくてはならない。
新たな知識を植え付けられては、直後に否定され、己の固定観念を破壊される。
この感覚がとても面白く、長い思考実験をしているかのような錯覚を覚えた・・・。 
 
そしてここから物語は大きく変わる。
夏から冬へと。
1999年からおよそ2万年後へと・・・。

 To be continued...